◆ 遺産放棄と相続放棄
遺産(財産)放棄とは、相続人間で行う遺産分割協議において
何も相続しないことを認め
その旨を遺産分割協議書に記載することです。
一方で相続放棄は、
相続人の地位そのものを放棄することを意味します。
似たような名称ですが法的な効果や手続きは全く異なります。
ここでは相続放棄について
その効果や手続きについて詳しくみていきましょう。
◆ 相続放棄の効果
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。
相続人として遺産分割協議に参加したり、
相続手続きに関与したりすることはできなくなります。
プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなります
即ち、被相続人の借金を相続せずに済みます。
一方、遺産分割協議で一切財産を相続しないと決めても
借金などのマイナスの財産は法定相続分に応じて
当然に引き継がれてしまいますので注意しましょう。
◆ 相続放棄するのはどんなとき?
相続放棄は次のような場合に行われます
〇故人に多額の借金がある場合
〇故人が誰かの借金の連帯保証人になっていた場合
〇相続のトラブルを避けたい場合
〇特定の相続人に遺産を集中させたい場合
〇遺産が少ないため、煩雑な手続きやトラブルを避けたい場合
相続ではプラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐことになりますので
故人の借金を背負いたくない場合は相続放棄を検討します。
他に、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続する
「限定承認」という手続きもありますが
今回は相続放棄に絞って説明します。
◆ 相続放棄の手続き
1.家庭裁判所への申述
家庭裁判所に申述書と必要書類の一式を提出します。
申述には期限が定められており、
相続が開始したこと(被相続人が亡くなったこと)及び
自分が相続人となった事実を知ったときから
3か月以内に行わなければなりません。
申述に必要な費用は収入印紙800円と手続きに使用する郵便切手です。
郵便切手の額は裁判所によって異なりますので確認が必要です。
申述に必要な書類は、
相続放棄する方の個人との続柄や家族構成によって異なりますが、
一般的には以下のようなものが必要です。
・ 相続放棄の申述書
・ 標準的な申立添付書類
・ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・ 申述人の戸籍謄本
・ 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・ その他,申述人の立場や被相続人の家族構成に応じて必要となる戸籍謄本
2.裁判所から「照会書」「回答書」が届く
申し立てを行うと、
相続放棄が本人の意思に基づいて行われていることの確認のため
1~2週間内に裁判所から照会書と回答書が届きます。
照会書の内容は、相続を知った時期や放棄を行う理由、
遺産の全部や一部を処分していないかなどの質問が記載されています。
その質問への回答を回答書に記載して
裁判所に返送します。
3.裁判所での審査
回答書が返送されてきたら、
裁判所は相続放棄申述の受理・不受理について判断をします。
相続放棄が無事に受理されると、
「相続放棄申述受理通知書」が届きますので必ず保管しておきましょう。
◆ 相続放棄の注意点
・相続放棄は取り消すことはできません。
・相続財産に手をつけてしまった場合には相続放棄はできません。
例えば、相続財産の全部または一部を処分した場合や
相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し
悪意で相続財産の目録中に記載しなかった場合なども
相続放棄は認められません。
・前述の3カ月の期間を過ぎてしまった場合は相続放棄はできません。
3カ月では相続放棄するか決められないような事情がある場合
家庭裁判所に申し立てることにより、6カ月に期間を伸長する手続きがあります。
あるいは、相続財産が何もないと相続人が信じていて
3カ月を過ぎて突然、多額の借金があると判明した場合などには
相続財産がないと信じたことに相当の理由があれば
借金が判明したときから3カ月で相続放棄が認められる場合もあります。
しかし、相続人の側で相当の理由を証明しなくてはなりません。
◆ 最後に
相続放棄は、様々な理由から必要な場合があります。
しかし、相続放棄は重大な決定です
相続放棄をした者でも、自分が受取人になっている
生命保険金や死亡退職金の取得は可能です。
ただしその場合は全額が相続税の対象となります。
なお、生命保険で被相続人が受取人となっている場合
保険金請求権は相続財産となり、
相続放棄した者はこれを相続することはできません。
このように経済的な影響や家族関係を含めて慎重な検討が必要です。